おなかいっぱい、シアワセいっぱい

VOL.5「JUNE 鮎を巡る冒険」

6月といえば鮎の時節、無性に好物の鮎の塩焼きが食べたくなってくる。かの美食の大家・北大路魯山人は、鮎を、「食べるにははらわたを抜かないで、塩焼きにし、蓼酢によるのが一番味が完全で、しかも、香気を失わないでよい。(中略)小口かぶりに頭から順次にかぶって食うのが、真の鮎食いの食い方である。」と記されている。うんうん、まさにその通り!焼きたてを頭からガブリといただくのは至福のひと時だ。

鮎の塩焼き


成魚になると藻類だけを食べるので、胡瓜のような青い香りを持つことから「香魚」、一年でその生を終えることから「年魚」という名もある鮎は、永く日本人に賞美されてきた魚。

熟れ鮓などに加工されて朝廷に、江戸時代には歴代の将軍にも献上されていた。その昔 神功皇后がこの魚を釣って戦いの勝利を「占った」から「鮎」という漢字になったという由来も面白い。

残念ながら天然ものは希少。季節中は何度でも鮎の塩焼きを食べたい私、養殖の鮎でも全然OK。気軽に家で焼いてはガブリ、を繰り返すのが6月の恒例だ。

小鮎の佃煮


可愛く整列した小鮎 ― 滋賀県産の小鮎を木の芽とあっさり煮た美味な佃煮は、地元 長浜の名店・一湖房のもの。食べるのがかわいそうなほど可愛いが、すぐにお酒も、ごはんも止まらなくなる。

うるか&ぐい飲み


以前 取材で岐阜県長良川の鵜飼を見たが、幽玄の趣きに溢れていた。とっぷりと日も暮れた頃、鵜舟に乗り込み、いざ鮎漁へ。(漁をするのは鵜匠さんたちだが)かがり火の焔が川面に映り、漆黒の鵜(間近で見ると大きくて、ちょっと怖い…)が鋭く川へ潜り、鮎を獲る…漁は最高潮を迎え、BGMで流れる謡曲もまた最高潮へ。
ふと見上げれば、そびえる山頂にはライトアップされた岐阜城が!その天守閣から仁王立ちした織田信長がこちらを睨みつけていた…ように感じた。いや本当に。

鵜飼見学前に腹ごしらえをした長良川畔にある鮎料理店・泉屋のうるかを見つけた。鮎のはらわたを塩漬けにした美味な珍味、岐阜の純米酒とじっくり一献。

面白てやがてかなしき鵜ぶね哉 芭蕉

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KITANOTOMOKO

Writer 北野智子

フードディレクター。唎酒師。
食べものとお酒を愛し、1日中食べ続けていたいほど食い意地が張っている。
日本の旬、歳時記、食の歴史・謂れなど食文化に興味が尽きない。
尊敬する人は、江戸時代の風俗・事物の書『守貞漫稿』の著者・喜多川守貞。
ほか愛するものはイタリアの食文化、食の本(蔵書は1000冊以上)、器やキッチンツールほか、雑貨&ステーショナリー(ともに食関連が特に)、旅、世界のBARなど。世界中のお酒を飲んでみたい。

表示価格は、ホームページ掲載時の消費税率による税込価格です。