もみの鯛

<VOL.31>
「紅葉鯛」―なんと風情のある呼び名であろうか。
紅葉の季節に獲れる鯛は、このような美しい名前を持っている。

さすが古くから日本で、“魚食の第一”とされてきた鯛、
季節ごとの粋なお名前をお持ちなのだ。

春、桜の季節の「桜鯛」、
夏、麦の収穫時季の「麦わら鯛」、
そして秋、紅葉の時節の「紅葉鯛」。

一般的に、
「桜鯛」は、産卵期で体色が婚姻色といわれる鮮やかな色になり美味な時季。
「麦わら鯛」は、産卵直後で味が落ちるとされ、実は残念な名前。
そして、秋にはまた脂がのってくるので、その味わいと色合いを称えて
「紅葉鯛」と呼ばれている。

さて、この紅葉鯛、まずは大好物の「鯛茶漬」でいただこう。
魚茶漬の中で、一番好きな一品である。

かの美食の大家・北大路魯山人先生は茶漬が好物で、
『魯山人味道』(中公文庫)に茶漬のごはんについてこう記されている。

「御飯の炊き方がやわらかく、ベタベタするようなのは一番いけない。すしの飯の程度がいい。炊きたての御飯ではいけない。生暖かにさめた程度がいい。茶漬けにもよりけりだが、魚の茶漬けには冷飯は絶対にいけない」―

いや、ごもっとも。
魚の茶漬に冷飯を使うと、魚の生臭さが前面に出てくるので、不味くなってしまう。

4~5ミリ幅に引いた紅葉鯛の切り身10枚程を、
醤油とみりん2:1に およそ5分間漬けておく。
一番出汁2カップに、淡口小さじ1弱、塩ひとつまみを入れ、茶漬だし汁を作る。
(煎茶をかけても もちろん美味しいが、今回はだし汁で。)

魯山人先生へのオマージュを込めて、
骨董市で見つけた“魯山人写し”の茶碗をいそいそ取り出し、
生暖かい程度のごはんを少なめにこんもりと盛る。

醤油とみりんが染みた鯛をのせ、山葵、白ごま、ねぎみじん切り(ねぎの香りが勝り過ぎぬよう ほんの少し)を盛り、熱々のだし汁をかけ、細かく揉んだ海苔を添える。

まずは茶漬全体の香りを胸まで吸い込んで感動の溜息をついた後、
やおらサラサラと搔き込む。

醤油&みりんテイストの奥から鯛の甘みが湧き出てきて、
そこへ山葵、ごま、ねぎ、海苔が相まって、あああ~美味しい!

茶碗の中の鯛がなくなると、
横にスタンバイさせておいた残りの鯛切り身を、素早く補充。
心ゆくまで鯛が味わえるのである。

もう一品は、週末のギャザリングなどで得意気に出してみたい「鯛めし」。

今回は焼き鯛ではなく、定家煮にした。
さっと熱湯をかけた鯛一尾は、一番出汁で煮て、酒、塩のみで味付けをし、さらに煮る。
この煮汁でごはんを炊く。
塩コレクターの私は、定家煮には必ず“藻塩”を使う。

洗米した米三合は1時間程ザルにあけた後、炊飯器に入れ、
鯛の煮汁1カップ、淡口少々を入れた後、水を三合に加減して炊く。
炊き上がったら、炊飯器に煮た鯛を入れて10分程蒸らす。

出来上がりを大皿に盛り付け、ゲストにさんざん見せびらかした後、
鯛の頭や骨を取り除いて身をほぐし、ごはんと混ぜ合わせて、いただきま~す。
針生姜などをのせても美味。

そうそう、この「定家煮」に藻塩を使うのには理由アリで、
平安~鎌倉時代の公家歌人・藤原定家が詠んだ百人一首の和歌、
「来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ」
に由来する料理だから、「定家煮」とされていることによる。

「紅葉鯛」と「定家煮」―
先人の風雅な感性に、これまた感服つかまつったのであった。

today's item


「阪神髭定」明石産 天然真鯛 時価 ◎地下1階:鮮魚売場
※天候により入荷のない場合がございます。あらかじめご了承ください。


「山本海苔店」梅の花 御詰合 5,400円 ◎地下1階:銘店和菓子売場


徳島県産 もみじ 時価 ◎地下1階:野菜売場
※天候により入荷のない場合がございます。あらかじめご了承ください。

「おなかいっぱい、シアワセいっぱい」
紅葉の鯛

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