TOP > おなかいっぱい、シアワセいっぱい > 魚食民族 日本人のワザ

魚食民族 日本人のワザ

<VOL.30>
「魚食普及月間」なので、
魚食民族 日本人の知恵と技が詰まった酒肴の数々を楽しむことにした。

この妖美な山吹色を放つ一品…これは一体 何かというと、
なんとフグの卵巣の糠漬け。

発酵学の権威・小泉武夫博士が、「地球上で最も珍しい食べもの」と
言われている、江戸時代から石川県で造られているこの珍味、
青酸カリより猛毒のテトロドトキシンがあるフグの卵巣を、
丸ごと食べられるように工夫されたもの。

ゴマフグの卵巣を漬け樽の中で塩漬けにした後、糠漬けにして数年間発酵させる。
この間に猛毒は発酵菌によって分解されるのだという。

鼻腔を抜けるなんともいえない発酵香と糠の香り、
塩辛さの中に奥深い魚卵特有の旨みがある。

新米の時季、炊きたてごはんにのせたり、お茶漬けにするとおかわり必至だが、
タラコスパゲッティのように調理してもこれまた美味しい。

フグ卵巣糠漬け2切れの薄皮を外してまな板にのせ、
その皮ごと包丁で細かくたたき、パラパラにほぐれたら、
温めたテフロン加工のフライパン(油は引かず)に入れて炒ること少々。
そこへバターをポトリと落として混ぜ合わせ、
茹でたスパゲッティ80~100g(卵巣に塩気があるので茹でる時の塩は極少で)
を入れて絡め合わせる。

この「フグの卵巣スパ」、
発酵を経た魚卵独特の日本の奥深さともいうべき風味がスパゲッティに
プチプチと放たれて、そこへ融和の大使・バターのコクみが混ざり合う、
なんともオツな酒肴パスタである。

こちらはまぶしい白さの剣先いかの塩辛珍味。
山口県北浦で獲れた、刺身で食べられるほど新鮮な剣先いかの身で造られている。

炊きたてごはんにのせると、あまりに白いので、
遠目ではどこにいかがのっているのかがわかりにくい。
ポチポチと入った赤色は唐辛子。

旨みと甘みを内包したごはん特有の芳香と甘みに、
いかの甘みが絡みついて後を引き、
またまたごはんのおかわりをしてしまう。

豆皿に並べると、プチンとつぶらな目と目が合った。

こちらは若狭湾で揚がる、カワイイするめいかの子の沖漬け。
酒、みりんが入った秘伝の醤油に漬けられた絶品珍味である。

「カワイイ~、かわいそうで食べられな~い」とか言いながら、
まずは日本酒のアテでいただきまぁす。

ごはんにのせるのもいいが、あまりに美味しい秘伝の醤油をまとった子いか、
新米と炊き込みごはんにしてみよう。

洗った米1合を1時間程ザルにあけた後、炊飯器に入れ、
すいか10~12匹、日本酒大さじ2、すいかの漬け汁大さじ1、
細かくちぎったバター80gを入れ、1合目盛りの水加減をして炊く。

炊き上がると、子いかは小さな脚のみを残し、
美味しそうな紫の色合いとなってごはんに溶け合っている。

ぷうんと香るバターと相まって凝縮されたいかの香り、
漬け汁の香り…あまりの芳香攻めにクラクラしながら、一口頬張る。

いかの旨みとコク、漬け汁の旨みとほの苦み、
それらにバターの香りが混沌とからみ合い、得も言われぬ奥深い味!

四方を海に囲まれ、魚介類が豊富だった日本で、
先人たちは様々な魚料理や加工・保存法を編み出してきた。
猛毒のフグの卵巣まで食べてやろうという執念に、
ただただ感服つかまつった。

「おなかいっぱい、シアワセいっぱい」
魚食民族 日本人のワザ

ページをシェアする