おなかいっぱい、シアワセいっぱい

神戸洋菓子クロニクル


<VOL.24>
お酒好きなので、日ごろバクバクとスイーツを食べるワケではないが、仕事の合間のおやつタイムに甘いものを食べると、ほっこりしていい気分になる。

仕事柄、新しく登場したスイーツは食べてみることにしているが、おやつのアイテムに、ちょっとした手土産や海外へのお土産にチョイスするのは、どこかレトロさをまとい、創業者の思いが詰まった、ブレないお菓子作りをしている老舗のもの。そう、私の洋菓子キーワードは「神戸洋菓子クロニクル」。

神戸が洋菓子の街とも呼ばれるのは、明治元年(1868)の神戸開港がきっかけ。
外国人の居留地が建てられたハイカラなこの街には、スイーツ事始めともいうべき、名店の銘菓が続々と誕生した。

これは、ユーハイム創業者 カール・ユーハイムが1909年にドイツで生んだ「フランクフルタークランツ」。バウムクーヘンと同時期の歴史を持つ、私の大好物のケーキ。きめ細かいスポンジにメレンゲを加えた軽いバタークリーム、泡雪のようなアーモンドシュガーがとろける口どけ。今時、美味しいバタークリームのケーキにはなかなか出合えないが、無性に食べたくなった時、身近にあってくれるのが嬉しい。

神戸での創業は大正12年(1923)。カール・ユーハイムは、第一次大戦で捕虜となり日本へ。ドイツ人捕虜による展覧会で日本初のバウムクーヘンを焼き、大好評を得る。日本に残り、横浜で菓子店を開き大繁盛するが、関東大震災で全壊。避難先の神戸で再び開店し人気を得たと思ったら、第二次大戦で店は再度壊滅。終戦前日にカールは逝去し、エリーゼ夫人もドイツへ強制送還される。後の激動の時代に、日本に残った弟子たちの必死の頑張りで、ユーハイムの味は守り続けられ、遂には店を復興させる。

苦労の連続の中、全ては「本物のドイツ菓子を広めたい」という、ただ一つの思いだったことに感動しながら、クランツをまた一切れ味わう。流行りや目新しさだけの店や人には出せない味が そこにはある。

こちらも神戸洋菓子の代表店、創業明治30年(1897)の老舗・神戸風月堂の看板スイーツ。このゴーフルは、「フランス菓子に和の心を取り入れたい」という思いを胸に、試作・研究に心血を注いで、昭和2年に完成された創作菓子だ。

ゴーフルを代表するクリームはストロベリー、バニラ、チョコレート。おチビの頃、これをお土産にもらったら、ストロベリーばかり先に食べて、母に小言を言われたものだ。

初代の家は250年に亘り回船問屋と旅館を営み、後 足袋商、洋服商を経て、ハイカラ神戸にふさわしい商いをと、洋菓子店を目指した。人々の暮らしに菓子を添え、豊かにしたいと願った創業者の、「お菓子は文化のエッセンス」というスピリットが籠められたのがゴーフルなのだ。
近年 流行っているベイク菓子の元祖ともいうべき、ロングセラー菓子である。

パケ好き女子なら知っている、「ポームダムール」のスケルトンりんご。
昭和46年(1971)、世界のチョコレートを集めた店として、元町で創業した一番館のロングセラーチョコ。

2年の歳月をかけて完成させた「ポームダムール」は、「愛のりんご」という意味で、なんともロマンティックではないか。蜜でボイルしたりんごの甘みと酸味を、ビターなチョコレートがくるんだこのチョコ、「愛は甘酸っぱくほろ苦いもの」という哲学テイストを感じるのは、深読みし過ぎ?

なかなかに大人の味わいで、普段はシングルモルトやダークラムのロックと一緒に楽しんでいる。キャンデーのように包んだ形状も、いかにもレトロな感じで好ましい。イケナイことかもしれないけど、バッグに忍ばせておくと、お酒は美味しいのに、チョコレートがイマイチという残念なBARに入ってしまった時に、かなり嬉しい展開になったりする。(笑)

昭和40年(1965)、「日本人の食生活を豊かにしたい」と、本物のパンを探求し続けてきたドンクは、日本初のフランスパンを誕生させた。(その前身となるパン店は明治38年創業)。

ここのロングセラーのバゲットや食パンでサンドイッチを作るのが大好きな私。買いに行く度にバッチリと目が合うのが、レジ横の棚から存在感をアピールするこのプチボールドーナツ。「はいはい、わかりました」と独り言をつぶやき、ついついおやつに買ってしまう。

粉砂糖たっぷりのコロコロ揚げドーナツは、レトロな味わいで何個でも食べてしまう。
置き場所、プライス、形状…どれをとっても、「ちょっといいよね」なのが小憎らしい。

昭和40年代、ドンクのフランスパン袋を抱えて歩くことがファッションになったという、
伝説のパリの地図絵の上にドーナツを置くとよく似合う。

変わらぬ菓子作りを続ける、スタイルのある伝統の菓子は、同じく伝統を重んじるイタリアの友人へのお土産にも喜ばれる。そこには「神戸洋菓子クロニクル」をちょっぴり誇らしげに語るジブンがいる。


today's item

 「ユーハイム ディーマイスター」フランクフルタークランツ 1,188円 ◎地下1階:洋菓子

 「神戸風月堂」ゴーフル(8枚入) 1,080円 ◎地下1階:洋菓子

 「一番館」ポームダムール(プレーン)スケルトン緑 1,350円 ◎地下1階:洋菓子

 「ドンク」ふんわりプチボールドーナツ(6個入) 162円 ◎地下1階:洋菓子

KITANOTOMOKO

Writer 北野智子

フードディレクター。唎酒師。
食べものとお酒を愛し、1日中食べ続けていたいほど食い意地が張っている。
日本の旬、歳時記、食の歴史・謂れなど食文化に興味が尽きない。
尊敬する人は、江戸時代の風俗・事物の書『守貞漫稿』の著者・喜多川守貞。
ほか愛するものはイタリアの食文化、食の本(蔵書は1000冊以上)、器やキッチンツールほか、雑貨&ステーショナリー(ともに食関連が特に)、旅、世界のBARなど。世界中のお酒を飲んでみたい。

表示価格は、ホームページ掲載時の消費税率による税込価格です。